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2013/5/5

ボザールミューの椅子。

この6月いっぱいで銀座ボザール・ミューが30年続いた、看板をおろす。昨日そのハガキが来た。知っていたけど、現実になってみると、感慨深いものがある。僕自身は、20年の付き合いになる。いつか、この時が来たら、日記でミューさんのことを描こうと決めていたことがある。

もう、10年以上前のことになる。毎年続けていたミューさんでの二人展で今まで売れていた作品が急に売れなくなって、「これはヤバいな」って思っていた。その当時まだ家には、高校生筆頭に3人の子供がいて、この二人展の売り上げを見込んでいた。そんな最終日のこと。

ボザール・ミューにある椅子二脚。「この椅子を直ししていただけませんか?」その椅子は、作家さんから中古で頂いた物で,品のいいシンプルな椅子だった。座る部分の皮革が少し破れていて、骨組みも少しぐらついていた。「皮革と木を使っていますので、お二人に直していただきたいのです」とミューさんのお言葉。「作家の方にこのようなことをお願いして申し訳ないのですが・・・」という言葉も付け加えられた。

そして、搬出の時にその2脚の椅子を載せて自宅工房に帰り、皮革を張り替え,骨組みを補強した。仕事は簡単に終わり、銀座に届けた。「私は所用でおりませんので、中に入れておいてください」鍵を預かっていたので、中に入ると、テーブルの上に「伸さん、サチコさん」という手紙があった。中には,椅子の直しとは思えない程のお金が入っていた。「ありがとうございます。このようなことを作家の方にお頼みしたことお許しください」とまた付け加えられていた。僕達に恥をかかせたくないような心配りに胸が締め付けられた。

僕は、このことを思い出すと、今でも泣けてくる。そして、温かい気持ちに感謝して、また頑張ろうって思う。きっと、ミューさんはもうこのことは、忘れているかもしれない。だけど、僕達はずっと忘れない。多分一生忘れないだろう。

お疲れさま、ボザール・ミュー。そして、ミューさんありがとう。

 

 





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